うちのアパートに頭のおかしいババアが住んでいる。まともじゃないことは言動から明らかで、例えば毎日のようにアパートの前の道路の中央分離帯に仁王立ちしながらアイスクリームを食べている。かと思えば、道路を挟んだ向かいにある家の前で延々とタバコを吸っては、吸い殻をその家に庭に投げ入れ続けていたりする。いつかは、他の住人の車をブロックするように自分の車を停め、当然その住人が怒って文句を言うと、逆ギレ(というか狂ってるんだけど)してその住人に食ってかかっていた。
それでもまあ、これまでは自分に関係ないからどうでもいいいやと思っていた。しかい、ついに我が家にも災いが降りかかってきてしまった・・・
ある日の夕方、このババアがアパートの外廊下に水を撒き始めた。たとえ自分の部屋の前でも、皆が通る外廊下に水を撒くというのはかなり異様な行動である。しかしこのババア、清掃業者が使う蛇口にどこから持ってきたのかホースを繋ぎ、自分の部屋の前どころか外階段からアパートの正面入り口の辺りまで、かなりの範囲を水浸しにしていた。
その翌日、またしても水を撒く音がした。「あのババア、また水撒いてるのか?」とダンナが様子を見に行ったのだが、しばしの後に何やら言い争う声が聞こえてきた。「相手は頭おかしいんだから、関わり合いにならないほうがいいのに」などと思っていたのだが、戻ってきたダンナの話を聞いて驚いた。
このババア、駐車場でホースを使って自分のボロ車を洗った後(ババアのボロ車は窓が壊れて全開なのだが、さすが狂人、そのまま水をかけていたそうである)、あろうことか、うちの2台のスポーツカーに水をかけやがったというのだ。ダンナが住み込みの管理人が在宅かどうか確かめに行っている間に、自分で車を見に行ってみた。
唖然、である。手前側にちょっと水をかけたというレベルではなく、2台ともごていねいに前から後ろまで全体がびしょ濡れだ。ちなみにうちのダンナな車をきれいにするのが趣味みたいな人間で、うちの車は常にピカピカだ。ダンナの車はもちろん、私の車も売りに出しているので、いつ誰が見に来てもいいようにピカピカになっていた。それが2台とも(ついでに車の後ろに置いてあった自転車も)びしょ濡れである。たかが水とはいえ、こちらの水道水は硬度がかなり高く、濡れたまま放っておくと白くシミになってしまう。
どうしてくれようかと思っていたら、うまい具合に別の部屋の兄ちゃんが通りかかった。彼は実に人のいい兄ちゃんで、アパートの誰とも仲良く付き合っている。思わずこの兄ちゃんを呼び寄せ、「目撃証人になってくれる?!」と有無を言わせぬ勢いで頼んだ私。
実はこの兄ちゃんも、うちのダンナに負けないぐらい車をきれいにするのが好きで、暇さえあれば車を磨いている。うちのダンナがいつも車をきれいにしているのも知っているから、水浸しになった2台の車を見るなり思いっきり顔をしかめて「誰がやったの?」と聞いてきた。ふと見れば、ババアはまだ自分の車のところにいやがる。
ババアを指差して「彼女」と私。「どうして?!」と人のいい兄ちゃん。「頭おかしいからでしょ」と吐き捨てるように言う私。「とにかくこの状態、見たよね? 証人になってくれるよね?」
するとこのババアと、一緒にいた一目で制服と分かる格好をした兄ちゃんがこちらに近づいてきた。このババア、前から遠目に見て変な顔だなあとは思っていたが、改めて近くで見るとすっげぇ〜〜〜怖ぇ〜〜〜顔だ。ノーメイクで恐怖映画に出られるよ。もちろん化け物役で。
人のいい兄ちゃんは、「なんでこんなことするの?」とババアに聞いた。その答えがまた狂っている。曰く、うちのダンナと私が夕べの午前3時に彼女の部屋に行き、窓にいたずらをしたから、だそうた・・・。呆れて空いた口が塞がらん。明らかに狂っている。誰が聞いても狂人の妄想だと分かる。
兄ちゃんが「彼らがそんなことするわけないじゃない」と言っても、私が「なんでそんなことしなきゃなんないの?!」と聞いても、ババア「私は見た」の一点張り。全くお話にならない。制服を着た兄ちゃんは、息子か? 介護スタッフか? よく分からんが彼も一生懸命ババアをなだめるのだが、狂人の憎まれ口は止まらない。そのうち、「こんなの、ただの水じゃない。かけたからどうだっていうのさ?」「水をかけて欲しくないのなら、最初からそう言えばいいじゃない」とまで言い出した。いちいち答えるのもバカバカしい。
誰が聞いてもこのババアがおかしいのはすぐに分かるし、私たちが夜中にババアの部屋に行くわけがないことだって誰にでも分かる。相手は狂っているのだ、可哀想な病人なのだ、相手にして真剣に怒るだけエネルギーの無駄なのだと、分かってはいる。分かってはいても、世にも恐ろしい顔をさらに醜くゆがめて悪態をつき続けるババアを見ていると、ふつふつと殺意が沸き上がってくる。
#このババア、2度と悪さできねえように、足腰立たねえぐらいボコボコにしたろか?!
(続く)